当たり前のことですが、商売をするには売るものを作らなければなりません。
これは個人で事業を行っている人や起業家には特に納得してもらえることだと思います。
書籍を出している多くの個人事業主は、ジャンルはそれぞれ異なりますがコンサル業をしている印象です。
またサイバーエージェントの藤田晋氏は、企業当初は自身の営業力を商品としていました。
自分の出来ること・作れるものと、世の中の需要との折り合いをつける必要があります。
今回はそんな商品の作り方について、複数の視点から見ていきます。
〇商品開発が先 プロダクトアウトの考え方
プロダクトアウトとは、企業が自社の技術やアイデアを基に製品やサービスを開発し、市場に提供する考え方のことです。
つまり、消費者のニーズに合わせるのではなく、企業が「良い」と思うものを先に作り、それをマーケティングやセールスの力で市場に普及させる戦略です。
プロダクトアウトのメリットは主に、
・革新性の高い商品が生まれる
企業の技術力やアイデアを存分に活かせるため、競合がまだ提供していない新しい製品を開発できる。
・ブランドの独自性を確立できる
他社に左右されない独自の路線を貫くことで、ブランドイメージを強化できる。
・価格競争に巻き込まれにくい
ユニークな製品で市場をリードできれば、価格競争に陥りにくく、利益率を確保しやすい。
といったものが挙げられます。
簡単に言えば、良いものを作れば売れるという考え方ですね。
ホンダが創業の際に作ったエンジン付き二輪車はこの考え方に近いと思われます。
反面、プロダクトアウトのやり方には以下のようなデメリットも存在します。
・市場のニーズとズレる可能性がある
消費者の求めるものと異なる製品を作ると、売れないリスクが高まる。
・マーケティングコストがかさむ
市場に浸透していない新製品を広めるには、広告やプロモーションの費用が多くかかる。
・開発リスクが大きい
需要が不確定な製品を開発するため、大きな投資をしても成功する保証がない。
企業の強みを活かして画期的な商品を生み出せる一方で、市場との乖離があると失敗する可能性があるのがプロダクトアウトの特徴です。
〇顧客調査が先 マーケットインの考え方
マーケットインとは、企業が市場や消費者のニーズを分析し、それに合わせて製品やサービスを開発する考え方です。
つまり、消費者の求めるものを優先し、市場の需要に沿った商品を提供する戦略ですね。
マーケットインのメリットには以下のようなものがあります。
・市場ニーズに合った商品を開発できる
事前に消費者の要望を把握するため、売れやすい商品を作りやすい。
・販売リスクが低い
需要がある商品を作るため、プロダクトアウトに比べて失敗する確率が低い。
・顧客満足度を高められる
消費者の期待に応えることで、ブランドへの信頼やリピート購入につながる。
反面、デメリットには以下のようなものが想定されます。
・差別化が難しい
市場のニーズに合わせると、競合他社と似た商品になりやすく、独自性を出しづらい。
・革新性が乏しくなりがち
消費者の現状のニーズに寄り添うため、画期的な技術やアイデアが採用されにくい。
・市場調査のコストがかかる
消費者の嗜好を分析するために、アンケート調査やデータ分析などの費用が発生する。
マーケットインは消費者の声を反映しやすい一方で、企業の独創性が損なわれるリスクが存在します。
またマーケットインでは消費者調査がきちんと行われ、それを基に商品開発をすることは大前提として、調査結果を正しく読み取る能力も要求されます。
実例として、缶コーヒーの消費者アンケートを行った際、「あまり甘くない味が良い」「ブラックが良い」といった回答が多く出ることがありました。
「ビターな味わいのコーヒーが求められている」
そのように開発陣は考え、ブラックコーヒーを開発したのですが、売れませんでした。
消費者アンケートでは甘味が求められていない回答が多い一方で、実際の売上は甘い缶コーヒーの方が高かったというデータがありました。
そのデータに従い、甘さを推し出した商品を開発したらよく売れたというエピソードです。
消費者はアンケートでは恰好をつけたいなどの理由で本当の答えを言わない場合や、「自分はこうだ!」と思い込んでいて実態とはかけ離れた回答をする場合があります。
その辺を見抜く能力も、マーケットインでは必要になってきます。
〇アイリスオーヤマ式 ユーザーインの考え方
プロダクトアウト・マーケットインの考え方の他に、アイリスオーヤマの創業者である大山健太郎氏が考案したものが、ユーザーインの考え方です。
ユーザーインとは、市場に存在する既存製品を使い込んだ上で、不便な点を見つけ、その不便な点を解消することによって製品開発を行う考え方です。
ユーザーインの考え方で作られる商品は少ないですが、その効果はアイリスオーヤマの業績が証明しています。
〇商品開発第三の道 マーケットアウトの考え方
マーケットアウトとはマーケットインとプロダクトアウトの考え方を両立させたものです。
つまり、企業の技術力や独創性を活かしつつ、市場のニーズにもしっかり対応するバランス型のアプローチになります。
マーケットアウトの特徴は以下のようなものがあります。
・市場のニーズを先に把握し、技術やアイデアで応える
まず市場調査を行い、消費者の求めるものを理解した上で、自社の強みを活かして商品を開発する。
・革新性と需要の両方を考慮する
ただ市場の要望に応じるだけでなく、企業ならではの技術やアイデアを盛り込み、他社と差別化を図る。
・市場の反応を見ながら改善を繰り返す
一度製品を市場に出した後も、フィードバックを元に改良を重ね、より良い商品を作り続ける。
マーケットアウトの考え方を導入して成功した事例にiPhoneが挙げられます。
AppleのiPhoneは、最初から「スマートフォンの市場ニーズ」も考慮しながら、Apple独自の技術革新を加えた商品として誕生しました。消費者の使い勝手を重視しながらも、タッチスクリーンやアプリストアなど新しい概念を導入し、市場を革新しました。
〇小林一三の教訓から学ぶ商品づくりの注意点
プロダクトアウトの考え方では商品力で、マーケットインの考え方では調査力で売上を上げるという特徴がありました。
どちらも一長一短ありますので、場合によって使い分けたり組み合わせたりすることも必要です。
ただし注意しなければならないのは、感情の赴くままに個性を生かした商品を作ってしまうことです。
商品は消費者の受け入れ体制がない状態で売ったとしても売れません。
あまりに前衛的な商品は消費者が敬遠してしまいます。
現在の近畿日本鉄道(当時大阪電気軌道)の生駒トンネル工事着工の際、その先見の明を理解できなかった関係者が多かったことに教訓を得た、阪急電鉄創業者の小林一三はこのように遺しています。
百歩先の見えるものは狂人扱いされ
五十歩先の見えるものは多くは犠牲者となる
十歩先の見えるものが成功者で
現在を見得ぬものは、落伍者である
商品開発の際も、消費者の受け入れ態勢ができているかは気をつけたいものです。